コウカンチョウ
果てしなく広大に見える大宇宙。無数の銀河の一つ一つにまた無数の恒星。その恒星の一つ一つが幾つもの惑星を従えているのなら、宇宙全体にはどれほどの数の惑星があるのだろう。
私たちの惑星、地球。太陽から程よい距離にあり、程よい質量を持ち、程よい原子配分、程よい温度、程よい重力、程よい傾き、程よいスピン、等々、程よさを数え上げたら切りがない。このような条件を備えた星は、確率論から見ると、この大宇宙といえども1個未満しか有り得ないらしい。
しかし、地球は在る。地球の存在こそ奇跡中の奇跡だ。
私たちの星、地球。宇宙飛行士がこの青い星の美しさに深く感動したという。青、茶、緑、白などの彩は、生命を育む星ならではの輝きだろう。この美しい天体が真っ黒な宇宙にぽっかりと浮いているというのだ。私たちもその写真を見た。
光と空気と水と土を豊富に備えたこの星では、数多くの生命が活動している。太陽からは無料のエネルギーが絶え間なく供給される。花の色が輝くのも、太陽光の一部の波長が反射されるからだ。
どんな小さな花も、画家が真似できないような色彩や質感を表し、芳香と蜜を携えている。どんな小さな虫も、飛んだり跳ねたりしながら、時が来れば配偶者を求め、子孫を殖やす営みに生命の限りを尽くしている。そこは、科学者でなくても、詩人でなくても、普通の人間である私たちが、自然の道理を学ぶ教材に満ちている。
森で、耳を澄ましてみよう。葉を打ち鳴らす風の音、さらさらと流れるせせらぎの音、小鳥のうた声、虫の音、などがまず耳に入ってくる。大きな樹齢を重ねた木を見つけて、幹に耳を当ててみよう。
その木は森を何十年、あるいは何百年も見守ってきた。一粒の種、一個のドングリから始まり、草の中、藪の中を上へ、上へと伸び続け、台風に遭い、雷鳴に震え、もしかしたら火に焼かれそうになったこともあるかもしれない。今は多くの鳥や獣たちのねぐら、虫や微生物の棲み家になっている。まずはその自叙伝を聴く心で耳を澄ましてみよう。
木は森に向かってさまざまなシグナルを発信し、また森の声を受信するアンテナでもある。幹にぴったり耳を当てれば、森のシンフォニーが聞こえるかも。植物語の辞書はまだないけど、その木のささやきも感じてみよう。愛おしさを通して、必ず何かを語りかけて来るはずだ。
森の香り、それは地球ならではの複雑で精巧な生命活動の発する息吹そのものだ。土壌から、微生物の営みから、草木の葉から、花から、樹皮から、倒木から、発せられ、空中で交じり合って森の香りとなる。
排気ガスとスギ花粉の都会を抜け出し、胸いっぱいに森の空気を吸い込んでみよう。同じ酸素でも、森の浄化システムが程よく処理した健康な酸素だ。肺から血液に乗って、脳を始め体内の隅々にまで自然本来の機能が回復する思いがする。
土のにおいを嗅いでみよう。アスファルトを敷き詰めた地面にはない、どこか懐かしいにおいがするだろう。大地のミネラルに加え、落ち葉や虫や獣の糞などを無数の微生物が分解し、長い年月を経て造り上げてきた土だ。一掴み取って、その感触、色あい、香り、味を確かめてみよう。土をほぐし、虫眼鏡でのぞいて見よう。宇宙飛行士たちが懐かしがる、生命の故郷がそこにある。
流れる水、湧き出る水、ハイキングで山の美味しい水を飲んだ記憶は消えることがない。ポリタンクに詰めて家に持ち帰れば、山からの素晴らしいお土産になる。蒸留水とも違う、水道水とも違う、純粋の水と大地のミネラルの味は、どんな清涼飲料水にも勝る。
この天然のミネラルウォーターは、土地によって味わいが異なる。天然の大地の組成は一様ではない。各々の泉、各々の谷川に自慢の味がある。サケやマスも故郷の水を記憶している。
土も味わってみよう。飲み込まなければ大丈夫。鉱物の味に加え、植物の味、動物の味までも沁みこんでいる。弱酸性、弱アルカリ性、中性だけでない、生きものの生命に不可欠な成分を推定することもできる。ある日、自分の体が震えるほど喜ぶ水と土に出会えたら、そこがあなたの養老の森。万物の霊長らしく、原初的感性を取り戻そう。
地球上の中には熱いマグマが詰まっている。温泉では地熱を全身で実感する。大気圏外は凍てつく寒さ。しかし、地上は熱帯から寒帯まで、どこにでも人が住んでいる。人の生命を支える植物や動物も生きている。地表は私たちの体温を守るのに程よく暖かく、程よく涼しい。
この程よさを保つのに大きな役割を果たしているのが緑の植物だ。砂漠では、昼には酷暑で、夜には激しく冷え込む。都会の樹木は緑のエアコンとして見直される。
夏の木陰の心地好さ。冬の陽だまりのぬくもり。日照と気温に反応する植物の花ごよみ。私たちの肌の記憶でもある。
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